1 時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会 最終答申 平成18 年11月 2 - 目次 - はじめに ・・・ 1 序 ~時を超え光り輝く京都の景観づくりについて~・・・ 3 Ⅰ.京都の景観の現状 ・・・ 4 Ⅱ.歴史都市・京都の景観形成のあり方 ・・・ 9 Ⅲ.今後の景観形成のための方策 ・・・11 Ⅳ.景観政策の推進に関する事項 ・・・34 おわりに ・・・36 (参考)審議等の経過 1 はじめに 日本が世界に誇るべき至宝と言える京都の優れた景観が、高度経済成長期以降、とりわけバブル経済期における都市開発の流れの中で、そして失われた10年を過ぎてもなお、行政、市民、事業者等による懸命な保全・再生の努力にもかかわらず、京都の風土や伝統文化と無関係に変容してきている状況にある。 こうした状況の中、本審議会は、平成17年7月25日に京都市長から景観形成上重要な4つの視点を含む「時を超え光り輝く京都の景観づくり~歴史都市・京都にふさわしい京都の景観のあり方~」について諮問を受けた。 平成17年度は、しのびよる破壊の中、時間との闘いが求められる京都の景観の現状に鑑み、特に緊急を要する「建築物の高さやデザインの更なる規制・誘導」「京町家など歴史的建造物の保全とそれを活用した都市景観の形成」及び「看板など屋外広告物や駐輪・駐車対策の強化」を中心に、6回にわたる集中的審議と市民の意見を問うための公開シンポジウムの開催やパブリックコメントの実施等を経て、平成18年3月27日、緊急に取り組むべき施策を示した「中間とりまとめ」を提言したところである。 京都市がこの提言を直ちに受け止め、同年4月19日に、桝本市長から全国では前例のない市街化区域全域にわたる高さ規制の見直しや建築物のデザインの規制の強化を含む「新たな景観施策の展開について」の方針が示された。本審議会としても、この京都市の速やかな取組について敬意を表するものである。 引き続き本審議会は、平成18年度、残る課題である「眺望景観や借景の保全」について、集中的に審議を重ね、この度、その結果を含め2箇年にわたる全ての審議結果を取りまとめて最終答申として提言するものである。 提言にあたり、この間、膨大な景観に関する資料の収集や分析等に骨身を惜しまず協力して、作業を続けてくれた京都市都市計画局担当諸氏に心から感謝の意を表する。これらの貴重な資料は、今後も積極的に活用され、京都市の景観政策にも活かされていくことを期待する。 まさに現在の京都市の景観は、危機的状況にあると言っても過言ではない。京都市、市民、事業者等のあらゆる主体が、この答申の真意を理解し、速やかに実効ある取組を進め、50年後、100年後においても世界の人々を魅了する歴史都市・京都、即ち“時を超え光り輝く京都”であり続けることを心から望むものである。 平成18 年11月14日 時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会会長 西 島 安 則 2 時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会委員 荒川 朱美 京都造形芸術大学教授 池田 有隣 京都工芸繊維大学名誉教授 市田 ひろみ 服飾評論家 川﨑 清 京都大学名誉教授 黒田 正子 エッセイスト、編集者 金剛 育子 能楽・金剛流宗家夫人 関根 英爾 京都新聞社論説委員 田坪 良次 京都市立芸術大学名誉教授 巽 和夫 京都大学名誉教授 田端 泰子 京都橘大学長 中井 忍 雑誌編集者、(有)ホンヌ代表取締役 西島 安則 京都市産業技術研究所所長 樋口 忠彦 京都大学大学院教授 村田 純一 京都商工会議所会頭 森本 幸裕 京都大学大学院教授 門内 輝行 京都大学大学院教授 安本 典夫 立命館大学教授 山田 沙 市民公募委員 吉井 英雄 市民公募委員 若林 靖永 京都大学大学院教授 毛利 信二 京都市副市長(行政委員) 3 序 ~時を超え光り輝く京都の景観づくりについて~ 京都は、平安建都以来、1200 年を超える悠久の歴史を積み重ねてきた都市である。 三方をなだらかな山々に囲まれた盆地に建設された平安京は、中国の都城をならい条坊制とよばれる碁盤目状に区画され、大内裏と羅城門を結ぶ朱雀大路によって大きく右京と左京によって分けられた。しかし、桂川を中心とした右京一帯にはあまり人々が住まなくなり、都の中心は次第に鴨川を中心とした左京に移っていった。 天下統一を果たした豊臣秀吉は、都を防御するために御土居を築造し、短冊街区の地割などにより、近世都市の発展の礎を築いた。徳川家康が江戸に幕府を開くと、政治の中枢は江戸に移るが、京都には都の文化が脈々と引継がれていった。更に1869(明治2)年に東京に遷都されると、内裏周辺の公家町は荒廃するが、大内保存事業により御所周辺の土塁や苑路の整備、植樹などが行なわれ、また、琵琶湖疏水の建設や内国勧業博覧会の開催など近代化が急速に進められた。 現代の大都市でもある歴史都市・京都には、こうした永い歳月の中で、三方の山々と鴨川、桂川などに代表される山紫水明と称される豊かな自然と、世界遺産を含む数多くの歴史的資産や風情ある町並みとが融合して、地域ごとに特色ある多様な景観が創り出され、それらが重なり合って全体として京都らしい景観が育まれてきた。 このような京都の景観とは、本来、京都特有の自然環境の中で伝統として受け継がれてきた都の文化と町衆による生活文化とが色濃く映し出されているものであり、日々の暮らしや生業等の都市の営みを通じて、京都独特の品格と風情が醸し出されてきたものである。また、時の移ろいとともに変化する町の佇まいや四季折々の彩りが京都の景観に奥深さを与えてきた。 このため京都の景観は、視覚的な眺めだけでなく、光、風、音、香りなど五感で感じられるもの全てが調和し、更には、背景に潜む永い歴史と人々の心の中に意識されてきた感性や心象も含めて捉えられ、永らく守るべきものとして認識されてきたのである。 しかし、高度経済成長期以降の急速な都市化の進展に伴う、無秩序な都市景観の出現により、京都らしい景観が変容してきており、このままでは、都市の魅力・活力の低下も招きかねないことから、景観問題への対応は京都創生の枢要な課題となっている。こうした現象は京都以外の歴史都市にも見られるもので、京都の取組は他の歴史都市の再生にも道を拓くことになろう。 そのため、現在の京都の景観を、自然的側面と文化的・歴史的側面を包括するものとして捉え、時を超え守り育て、今後、一層光り輝く京都の景観づくりを持続的に進めることによって、日本のみならず、世界の歴史都市のトップランナーとして、21世紀を先導する美しい景観や豊かな環境を有する新たな都市像を実現していく必要がある。 4 Ⅰ.京都の景観の現状 1.京都市のこれまでの取組 我が国では、高度経済成長期以降の急激な都市化の進展に伴い、市街地の拡大や建築物の更新等により、都市の景観が無秩序に変容してきた。京都市においても例外ではなく、1200 年の伝統文化を伝える歴史都市・京都の優れた景観が変容してきている。 その背景には、人口や世帯数の増加、家族構成や地域コミュニティの変化、更には、産業構造の変化、自動車優先の交通体系への転換など、社会経済の構造的変化が潜んでいる。このように景観問題は、背景となる社会経済の変化を含めて考察しなければならない。京都市では、こうした景観の変容に対し、市民の協力の下に、昭和5年の風致地区の指定以来、様々な制度を駆使し、京都らしい景観の保全・再生に努めてきた。 いわゆる古都保存法の歴史的風土特別保存地区等を活用し、自然・歴史的景観を保全するとともに、昭和47 年には、全国に先駆けて市街地景観条例を制定し、美観地区(美観地区は景観法の制定に伴い廃止され、新たに創設された景観地区に移行しているが、京都市では、これを引き続き「美観地区」と呼んでいるため、以下「美観地区」を用いる)等を活用した市街地景観の整備に着手した。 また、文化財保護法における伝統的建造物群保存地区制度は、京都市の市街地景観条例における特別保全修景地区制度が基となっており、平成16 年に制定された景観法も、京都市の取組が基になって国の制度となったとされている。このように、 京都市の先導的・先見的取組が、他都市の参考となるばかりでなく、全国を対象とする国の制度として結実したものは多い。 2.京都の景観の現状 これまでの京都市の景観の保全・再生への努力にもかかわらず、個人の価値観や生活様式の変化、偏った経済性・効率性の追求などの時代の流れに抗いきれず、京都の伝統文化を伝える重要な景観資源が次々に失われ、歴史都市・京都の景観は、更に変容を続けている。それは、バブル経済期以降もなお、徐々にではあるが、確実に続いている。 (1)地域の町並みと不調和な建築活動 市街地では、例えば、以下のような地域において、町並み等と不調和な建築物が増加しており、これにより、優れた景観の姿が崩れつつある。このような建築活動は、景観の悪化をもたらすのみならず、しばしば地域住民との摩擦の要因に 5 もなっている。 ① 山麓部の世界遺産周辺 三方の山並みを背景とする山麓部の鹿苑寺(金閣寺)や賀茂別雷神社(上賀茂神社)等の世界遺産周辺では、歴史的風土特別保存地区等の厳しい規制により、自然・歴史的景観は一定程度の保全が図られているが、その隣接地区で市街化が進み、これらの景観と不調和な中高層建築物が建築されている。 ② 三方の山々の内縁に広がる住宅地 三方の山々の内縁に広がる戸建住宅中心の良好な住環境を形成している住宅地では、幹線道路沿道をはじめとする隣接地区で、極端な高さの格差を生じさせる中高層建築物が建築されている。 ③ 都心部等の歴史的な建造物が多く存在する地域 都心部等の京町家をはじめとする歴史的な建造物が多く存在する地域では、次第に歴史的な町並みが姿を消しつつあり、歴史的な町並みと不調和な中高層建築物等が建築されている。 京都市では、これまでも、以上の地域をはじめとする市街地において、高度地区等による高さ規制や美観地区等によるデザインの規制・誘導により、景観の保全・再生に努めてきている。 高さ規制については、高度地区が市街化区域の9 割を超える広い地域で指定されており、この点は評価に値するものである。しかしながら、その高さの最高限度が、用途地域と連動し一律に定められており(商業地域:45m又は31m等)、景観の保全・再生のためのきめ細やかな配慮が不足していたため、魅力的な眺望景観の喪失や町並みのスカイラインの乱れといった景観上の問題を生じさせてきたことは否めない。 また、美観地区等については、歴史的な建造物が多く存在するなど、建築物に景観上の配慮が求められる地域でありながら、指定が行われていないところが存在するとともに、指定されていても、デザイン基準が地域特性を十分反映していないことや抽象的でイメージが不明確であることなど、地域にふさわしい建築物の誘導が必ずしも十分でないことも京都らしい景観の喪失等の原因となっている。 とりわけ、新たに建築される現代的な中高層建築物については、歴史的な町並みとの調和のあり方や京都らしさの表現についての認識や議論が深められていないため、形態、意匠、色彩等のデザイン基準そのものが極めて不十分なものとなっている。 更に、歴史的な建造物が多く存在する地域や良好な居住環境を有する住宅地で は、戸建住宅等の更新の際、敷地の統合や細分化が行われ、町並みに対するデザイン上の配慮を欠いた建築物が建築されている。 京都の歴史的な町並みの魅力の一つに、統一的な壁面が連続する通り景観の美しさがあるが、近年の建築計画を見ると、京都独特の短冊状の敷地に建築物を通りから後退して建築し、駐車スペース等としているものがあり、通り景観として6 の連続性や界わい性が失われている。市民の自動車の利用ニーズを踏まえれば、駐車スペースの確保はある程度必要やむを得ないものであるが、こうした敷地内での駐車スペースの配置が、景観に影響を及ぼしていることも事実であり看過できるものではない。こうした現象は、美観地区に指定されている区域によっては、主な規制の対象が既存の町並み景観への影響の大きい中高層建築物となっており、低層建築物に対する規制・誘導が不十分であることも要因となっている。 一方、先斗町等の歴史的な建造物が連担する鴨川沿いの景観については、この近隣で、土地の高度利用を図る観点から中高層建築物を許容する規制が適用されていることもあって、歴史的な建造物と隣接する中高層建築物との不調和が際立っている。 このような景観は、現在のゾーニングによる規制の考え方が、それぞれの地区内の町並みを対象としており、隣接地区や遠方からの眺めに配慮した高さやデザインに関する規制を行ってきていないことに起因している。 (2)眺望景観や借景の喪失京都には、歴史的な建造物、河川等の自然環境、そして三方の山並みなどが一 体となって調和している優れた眺望景観がある。また、京都では、遠くの景観要素を庭園に取り込み、一体的な景観として愛でる“借景”の文化が歴史的に育まれてきた。 京都市では、これまで自然風景保全地区制度を活用して市街地から三方の山並みへの眺望景観の保全を図ってきたが、当制度は自然景観の保全を目的としたもので、特定の場所(視点場)から眺めることができる対象(視対象)との間にある中間領域における建築物等の高さやデザインに関する規制を行なう事を目的とした制度ではない。このため、中間領域における建築等により、徐々に優れた眺望景観や借景が失われてきている。 このため、まず、保全すべき眺望景観や借景を明確にしたうえで、中間領域も含め視点場から視界に入るもの全てを規制の対象とする新たな取組が必要となっている。 (3)京町家等の歴史的な建造物の消失 京町家等の歴史的な建造物は、市域に多数存在する神社仏閣とともに、風情ある町並みを形成する歴史都市・京都の貴重な景観資源である。 京都市では、これまで、伝統的建造物群保存地区や、市街地景観整備条例に基づく歴史的景観保全修景地区や界わい景観整備地区を活用し、修理・修景助成等により、こうした歴史的な町並み景観を面的に保全・再生するとともに、歴史的意匠建造物等に指定することにより、建造物単体の保全にも努めてきている。 しかしながら、京都市には、膨大な数の歴史的な建造物が存在しているため、 7 財政上の制約もあって、修理・修景助成等の対象となる建造物は、ごくわずかとなっており、その大半は、所有者等により維持されている現状にある。こうした状況の中で、市民活動としても様々な歴史的な建造物の保全・再生の取組が行われてきているものの、相続や経済的事情などにより歴史的な建造物が取り壊され、年々その数を減らし、京都らしい風情ある景観が次第に失われてきている。 京町家については、所有者等による維持管理費用や相続税等の負担が課題となっているほか、京町家が建築基準法の施行以前に建築された建築物であり、構造や防火上の規定等に適合していない面があることから、その改修等において課題を抱えている。伝統工法による建築物の構造や防火上の安全性については、近年、様々な検証が行われてきてはいるが、依然として十分とは言えない状況にある。 また、明治期や大正期に建築された近代建築物、庭園と一体となった大規模邸宅等が、経済的な観点から土地の有効利用を図るために建て替えられたり、敷地を細分化して開発が行われるなど、貴重な景観資源の消失も進行している。 (4)屋外広告物や放置自転車等による景観の悪化 ① 屋外広告物等 都市の景観については、自然や建築物だけではなく、都市のあらゆる活動から生み出される全てのものが大きく影響するものである。 とりわけ、市街地では、商店街等の繁華街を中心に、建築物に設置された看板、電柱等のはり紙や立て札、歩道に立てられたのぼり旗等の無秩序に表示される屋外広告物、街角に設置された自動販売機などが、通り景観を悪化させている。また、南部地域等の幹線道路においても、ロードサイド型の店舗等の表示面積の大きい看板や原色系の色彩を用いた看板が、沿道景観を悪化させている。 京都市では、京都市屋外広告物等に関する条例に基づいて、派手な色彩の抑制や大きさの制限など、京都ならではの屋外広告物規制が行われているが、その一方で、許可を受けずに表示されている看板や基準に適合していない看板があることも事実であり、京都の景観を考えるうえで大きな課題となっている。 ② 放置自転車等 鉄道駅周辺、繁華街等では、放置自転車や違法駐車車両等も、景観を悪化させ る要因になっている。 京都市では、「京都市自転車総合計画」に基づき、“自転車等駐車場整備をはじめとする自転車利用環境の整備”と、“自転車等の放置防止啓発や撤去による利用マナー・ルールの確立”を両輪として、放置自転車等の対策が進められている。 こうした対策により、市内の駅周辺における放置自転車数が、平成11 年から6年間で約4割減少するなどの成果を挙げてきているが、都心部の放置自転車数の割合は相対的に増加しており、都心部の駐輪需要に対する駐輪スペースの確保が根 8 本的な課題となっている。また、違法駐車車両についても、駐車場の確保が課題となる一方で、町並みと不調和な機械式駐車場等が景観に影響を及ぼしていることもあり、こうしたことを踏まえれば、交通体系や交通問題そのものも課題として捉えていく必要がある。 (5)維持管理の行き届いていない森林等 三方の山々の山麓部等は、いわゆる古都保存法に基づく歴史的風土特別保存地区に指定され、凍結的な保存に努力されている地域である。この指定された地域においては、所有者の申出により土地の買い入れも行われており、京都市の買い入れた土地は、約200ha にも及んでいる。 しかし、買い入れた土地の面積が膨大なこともあって、森林等の維持管理が十分に行き届いていない場所があり、木竹が倒伏するなど、景観にも望ましくない影響が現れている。 森林が適切に維持管理されていないことにより、景観に様々な影響が生じている状況は、民有林においても同様であり、更に松くい虫による松の立ち枯れやシイノキの繁殖など、植生が変化することによっても、景観が変容してきている。 また、森林の保全と適切な活用は自然景観の健全な維持の基本であり、木造建築文化等の振興と森林の育成を結びつける取組も必要となっている。 9 Ⅱ.歴史都市・京都の景観形成のあり方 悠久の時の流れの中で培われてきた歴史都市・京都の優れた景観を守り、未来の世代に継承することは、現代に生きる私達一人一人の使命であり責務である。このことを踏まえれば、京都特有の風土や伝統文化と無関係に変容し続けている京都の景観の現状は、容認されるべきものではない。 今後予想される人口や世帯数の減少に伴う建設活動の変化、景観法の制定をはじめ景観形成や魅力的な地域づくりに関する国家レベルでの政策の動向など、現在の社会経済情勢を踏まえ、今こそ、こうした状況を打開する必要がある。 そして、50 年後、100 年後の京都の将来を見据え、現代の都市活動と調和し、「快適で、美しい、世界に誇る都市空間」の形成を目指し、京都の優れた景観を“守り”、“育て”、“創り”、そして、これを“活かし”ていく、歴史都市・京都の景観づくりに着手しなければならない。 ここで大切なのは、景観は、様々な都市の営みの“現れ”であり、市民をはじめとするあらゆる主体が共生・参加・協力しなければ、優れた景観を形成することはできないということである。 景観を構成する建築物、工作物、屋外広告物、緑地等が、たとえ“私有財産”あっても、景観が、“公共の財産”であることを十分理解・浸透させて、その高さやデザインなどを制御していかなければならない。そして、景観の公共性に対する配慮に満ちた京都の優れた景観の価値をあらためて認識し、それを京都にとどまらず、日本や世界の共有財産として尊重する必要がある。 このため、以下を歴史都市・京都の景観形成の基本方針とし、行政、市民、事業者、専門家、NPO等がこれらを共有したうえで、京都で発生している様々な景観問題を解決するとともに、50 年後、100 年後に、燦然と光り輝く京都の景観づくりに取り組むことを強く望むものである。 ① “盆地景”を基本に自然と共生する景観形成 京都は三方の山々に囲まれた内部に川筋のある、特長的な風土を有しており、このような風土が生み出す盆地景は、先人達が原風景として捉えてきた京都の景観の基盤とも言うべきものである。このような山紫水明の豊かな自然は、京都の重要な景観資源である。従って、京都の景観形成は、盆地景を基本とする自然景観の保全とともに、緑景・水景等の自然的景観の連なりを基調とし、市街地の道路、公園、建築物の敷地や屋上における積極的な緑化等により、自然と共生する都市環境を創出することを基本とすべきである。 10 ② 伝統文化の継承と新たな創造との調和を基調とする景観形成 京都は、永い歴史の中で培われた、洗練された都の文化と町衆の手による生活文化が連綿と継承されており、この伝統文化を背景に生み出された歴史的な建造物や町並み等は、京都の重要な景観資源である。そして、時代とともに、常に本物を追及しながら、新しい要素を積極的に取り入れていく京都の気風により、これらを創造的に発展させてきたものである。 従って、京都の景観形成は、歴史的景観の保全・再生とともに、京都の伝統文化を尊重する中で更に創造的視点を加えた、新たな時代を代表する優れた景観の創出を図り、これらが調和する都市イメージを具現化することを基本とすべきである。 ③ “京都らしさ”を活かした個性ある多様な空間から構成される景観形成 京都では、地域の伝統文化を伝えるヒューマンスケールの都市空間に、日常の暮らしや生業から醸し出される京都らしい風情が加わり、個性豊かな通り景観や界わい景観が形成されている。同時に、借景や眺望景観のように、個々の空間を超えて、それらが重層し、融合することにより構成される魅力的な景観がある。 従って、京都の景観形成は、このような京都らしさを活かした個性ある多様な空間を創出するとともに、これらが連続し、重なり合うことによっても、京都らしさを感じさせる都市空間を創出することを基本とすべきである。 ④ 都市の活力を生み出す景観形成 京都は、歴史的文化都市であるとともに、優れた伝統産業や先端産業を有し、多くの市民が生活を続ける大都市であることから、景観の保全・再生と地域経済の活性化の両立を図ることが重要である。 従って、京都の景観形成は、京都に付加価値をもたらし、居住者や来訪者の増加、優れた人材の集積、地場産業・観光産業・知識産業等への投資の増大につなげることにより、都市の活力の維持・向上の源となることを基本とすべきである。 ⑤ 行政、市民、事業者等のパートナーシップによる景観形成 京都は、早くから、地域の共同体の力や町衆の意識・無意識の協調的な活動によって、優れた景観を創出し、継承・発展させてきている。今後とも、市民をはじめとするあらゆる主体が、歴史都市・京都の景観を守り、育て、創り、活かすことについて意識を高め、参加・協力することが重要である。 従って、京都の景観形成に当っては、“公共の財産”としての景観に対する意識の醸成や共同体における価値観の共有を促進するとともに、景観形成に関する活動への参加・協力により、行政、市民、事業者、専門家、NPO等のあらゆる主体が、京都の景観の価値をあらためて認識し、それぞれの役割を踏まえ、一体となって取り組むことを基本とすべきである。 11 Ⅲ.今後の景観形成のための方策 歴史都市・京都の景観形成の基本方針の下、日々、京都の風土や伝統文化と無関係に変容し続けている景観の現状を踏まえ、今後の景観形成のための具体方策を示すこととする。 以下は諮問を受けた ① 建築物の高さやデザインの更なる規制・誘導 ② 眺望景観や借景の保全 ③ 京町家など歴史的建造物の保全とそれを活用した都市景観の形成 ④ 看板など屋外広告物や駐輪・駐車対策の強化の4つの視点を中心に、その方策を示すものである。 1.建築物の高さやデザインの更なる規制・誘導 (1)基本的な考え方 ① 市街地における建築物の高さ規制のあり方 建築物の高さは、建築物の形態を形づくる重要な基本要素の一つであり、高さ規制は、都市全体の景観イメージの形成に大きな影響を及ぼすものである。とりわけ、盆地景を基本とする京都の風土においては、市街地を取り巻く山並みとの関係の中で、建築物の高さ規制を考える必要がある。 このため、原則として京都の商業・業務の中心地区である都心部の建築物について一定の高さを認め、この都心部から三方の山裾に行くに従って、次第に高さの最高限度を低減させることを、市街地における建築物の高さ規制のあり方の基本とすべきである。 ② 地域の景観特性に応じたきめ細やかな規制・誘導 京都では、個々の地域が、自然、歴史、文化等から生ずる地域固有の景観の特長を有している。従って、景観形成は、こうした地域の景観特性に応じ、きめ細やかな高さやデザインに関する規制・誘導を行うことが必要である。 今後、世界遺産周辺、水辺空間や緑地空間、ランドマークを望む通り景観等の特色のある景観を有する地域など、地域の景観特性を詳細に把握したうえで区域を細分化し、通りや景観特色のあるまとまりを単位とする地区・場所ごとに、地区を超えた景観の調和も考慮したうえで、景観形成の方針を策定するとともに、規制・誘導制度を適切に活用していくことが必要である。 このため、美観地区について、現在の地域の特性を類型化した“種別”による規制から、地区の景観特性に応じた“地区別”の規制へ転換するとともに、町並 12 みとしての連続性を確保するため、一部の美観地区において、一定の高さを超える建築物のみを対象としている認定行為について、原則として、全ての建築物を対象とすべきである。 その際、各地区内の町並みを対象とした現行のゾーニングによる規制の考え方を見直し、周囲からの眺めにも配慮した高さやデザインに関する規制・誘導を行うべきである。 また、十分な空地や緑地の確保が困難な狭小宅地の多い地域に指定されている風致地区については、美観地区に指定替えを行うべきである。 更に、地区や場所を単位に、更にきめ細やかな景観形成を誘導するため、基礎をなす美観地区等の高さやデザインに関する規制・誘導に加えて、積極的に地区計画の活用や景観協定等の締結の促進を図るべきである。 ③ 高さとデザインに関する規制・誘導手法の再構築 1)高さの最高限度の引き下げ 建築物の高さ規制については、積極的に美観地区を活用するとともに、用途地域と連動して一律に定められている高さ規制のあり方を見直し、土地利用と景観形成の双方に配慮しつつ、きめ細やかにその最高限度を設定する必要がある。 このため、道路幅員と沿道の建築物の高さ規制との関係や保全が必要と認められる眺望への配慮とともに、世界遺産周辺、良好な低層の住宅地、歴史的な建造物が多く存在する地区など地域の景観特性や市街地環境の特性を勘案し、必要に応じ高さの最高限度を引き下げるべきである。 また、隣接地区間での極端な高さの最高限度の格差は、景観に影響を及ぼすおそれがあるため、良好な低層の住宅地、歴史的な建造物が多く存在する地区等の隣接地区において、高さの最高限度の格差を一定抑制すべきである。 更に、市街地全体の規制のバランスを考える中で、市街化区域内で高さ規制を行っていない工業系地域についても、土地利用と景観形成の双方に配慮し、必要に応じて高さの最高限度を設定すべきである。 なお、新たに設定する高さの最高限度と既存の指定容積率の間で極端にバランスを失する場合や、高さの最高限度の引き下げにより建築物の形態や敷地内の空地の確保に影響を及ぼす場合については、指定容積率も見直すべきである。 2)デザイン基準の明確化 本来、建築物のデザインは、建築される地域や場所、敷地形状、規模等によって、そのあり様が異なってくるものである。このことから、デザインの規制・誘導は画一的な基準によるマニュアル化が困難であり、また適切ではない。従って、デザインの規制・誘導は、必然的に裁量性を含むものとなるが、デザイン審査の合理化、景観法に基づく認定申請者等に対する事前明示性の確保に留 13 意し、明確な形態、意匠、色彩等のデザイン基準の策定が必要である。 このため、現行の美観地区等の抽象的なデザイン基準を以下のような構成に見直すべきである。 ・ 素材・形態の特定や色彩値を導入した明確な基準(「一般基準」)・ 一般基準を補完し、可能な限り運用方法を明らかにした裁量性を含む基準(「裁量的基準」)なお、デザインの基準については、できる限り明確に定める必要があるが、これらの基準が硬直化しないように定期的に見直しを行い、刷新していくべきである。 3)許可制による良好な建築物の誘導手法の導入 周囲の町並みより高い建築物でも、優れた建築計画であれば、地域のランドマークとなるなど、地域の景観の向上に貢献する場合もある。 このため、地域や都市全体の景観の向上に貢献するとみられる建築計画の場合に、高さの限度を超えることを許可する、新たな許可制による優れた建築物の誘導手法を導入すべきである。その際、地域特性や地域の将来の景観像も考慮したうえで、許可によって許容する高さの最高限度、周辺環境や町並み景観、眺望景観や借景の保全区域、質の高い空間演出の内容等に関する基準を可能な限り具体的に定めるべきである。ただし、デザイン基準の具体化には限界があることから、景観シミュレーション技術の活用や許可に関する権威を高めた専門機関の創設も視野に入れて制度設計を行い、公平で透明な手続の導入を図るべきである。更に、必要に応じて、建築主等が、周辺住民等に対して建築計画における景観への配慮事項を説明し、意見聴取する仕組や対話する仕組を導入すべきである。なお、学校・研究施設、医療施設、工業系地域の工場等の大規模な建築計画については、公共性・公益性に注目しつつ、必要な機能上の建築ボリュームにも配慮すべきである。 また、高さの最高限度の引き下げにより、新たな高さの最高限度を超える既存の建築物が発生することとなるが、これらの建築物は、建替え時には、新たな高さの最高限度が適用され、従前の床面積が確保できない可能性がある。 このため、高さの最高限度の引き下げの際には、所有者、居住者等に対し、規制内容や建替え時に新たな高さの最高限度が適用されることと併せ、地域や都市全体の景観の向上に貢献する建築計画に対して高さの限度を超えることを許可する制度があることも十分周知・説明するとともに、何よりも、歴史都市・京都の景観形成の取組への理解と協力を求めることが必要である。 また、景観という“公共性”のため、高さの最高限度を引き下げるによって 建替えが困難となる建築物、とりわけ、分譲マンションについては、同規模のマンションが建築できないことも予想され、合意形成等の面で、より一層建替えを困難なものとする可能性がある。 14 このため、こうした既存不適格建築物の建替えを促進し、周囲の町並みと調和のとれた建築物を誘導する仕組について検討すべきである。 ④ 勾配屋根等によるスカイラインの形成 京町家等が連担する歴史的な町並みにおいて、高さを微妙に変化させながら続く甍の波は、風情ある京都の景観に独特のリズムを与えるものである。また、このような和風の勾配屋根は、三方の山並みと調和する要素であるとともに、三方の山並みからの見おろしの景観においても重要な要素となる。 一方、陸屋根の屋上部分については、突出した塔屋や建築設備などにより、乱雑な景観を呈しており、通り景観だけでなく、見おろしの景観においても屋上景観の向上が必要となっている。 このため、美観地区等を活用し、建築物の屋上部分について、突出する塔屋や建築設備などを制限しつつ、勾配屋根や緑化を誘導することにより、歴史的な建造物や優れた現代建築、三方の山並み等とも調和した、新たなスカイラインを形成すべきである。 また、道路斜線等による高さの制限によって、上部に斜めの壁面を有する建築物が多く見られ、町並みのスカイラインの乱れにつながっている。 このため、建築物の上部のデザインの規制・誘導や、美観地区等の斜線による高さ制限の緩和制度を活用することなどにより、斜めの壁面が生ずることを抑制すべきである。 (2)地域別の規制・誘導に関する方策 景観形成のあり方の検討は、個々の景観特性に応じたきめ細やかな地域区分により行うべきであるが、個々の地域を個別に審議することは合理的ではないため、本審議会では、市域を「自然・歴史的景観保全地域」、「調和を基調とする都心再生地域」、「新しい都市機能集積地域」に大別した、京都市の既存の景観形成に関する基本的な考え方を基に、これらを地域の特徴により更に細分化し、審議を重ねてきた。 ここでは、審議会で審議の対象とした以下の地域について、地域別の規制・誘導に関する方策を示すものである。 また、その他の地域については、審議地域の景観形成のあり方を参考とすることとし、これにより、京都市全域の具体方策とするものである。 なお、以下の地域の中に、街区や通り等の更に小規模な単位で形成される景観や、眺望景観のように以下の地域の景観要素が重なり合って形成される景観が存在することに留意する必要がある。 15 ① 三方の山々と山麓部周辺 1)三方の山々と山麓部 京都市では、これまで風致地区、いわゆる古都保存法に基づく歴史的風土特別保存地区、京都市独自の制度である自然風景保全地区等の規制・誘導制度を活用し、三方の山並み等の自然景観や山麓部の田園風景、緑豊かな住宅地等の保全に努めてきている。 今後とも、これらの規制・誘導制度を適切に活用し、風趣ある自然景観の保全を図るとともに、土地の買い入れ制度を伴う歴史的風土特別保存地区等においては、土地所有者の申し出に確実に応じることができるよう財源を確保し、積極的に必要な土地の買い入れと適正な管理を行うべきである。 また、開発行為は、建築活動の前提となるものであるため、開発行為に当っては、緑化等により良好な建築活動の基盤が形成されるよう誘導すべきである。 2)世界遺産周辺 京都市には、14 の世界遺産に登録された神社・仏閣等があり、京都の景観を特長づける重要な要素となっている。このうち、三方の山々の山麓部に位置するものについては、歴史的風土特別保存地区等を活用した厳しい規制により、その周辺の自然・歴史的景観が保全されているものの、市街化の進んだ隣接地区では、これらの景観と不調和な中高層建築物が建築され、景観に影響を及ぼしている。 従って、景観上重要な世界遺産周辺地域においては、現行の歴史的風土特別保存地区等の区域のみならず、その隣接地区においても、一定の地域を限って重点的に景観の保全の取組を強化することが必要である。 このため、景観上重要な世界遺産等の周辺地域について、風致地区や美観地区を活用し、各世界遺産が存在する地域の特性に配慮して、高さの最高限度を引き下げるべきである。 また、緑豊かな地域特性に配慮し、世界遺産の周囲やそれに至る道路等において、積極的な緑化の誘導や、風趣ある景観と調和したデザインとなるよう規制・誘導すべきである。 ② 三方の山々の内縁部における住宅地等 京都市では、市街地の拡大が進む中で、三方の山々の内縁に位置する地域において、土地区画整理事業や計画的な宅地開発事業により、戸建住宅を中心とする良好な居住環境の整った住宅地が整備されてきた。これらの地域では、三方の山並み景観との調和を図るための一定の規制が行われているが、これまでの形態、意匠、色彩等のデザイン基準は抽象的で、地域の景観の向上に貢献する建築物の誘導が十分図れていない。また、地域特性に応じたきめ細やかな高さ規制が行わ16 れていないため、建築物の更新の際に、こうした良好な居住環境の整った住宅地と不調和な中高層建築物が建築されている。 従って、良好な住宅地の居住環境や景観を保全し、三方の山並み景観との調和を図るため、建築物の高さやデザインに関する規制・誘導を強化することが必要である。 このため、高さ規制については、幹線道路沿道の土地利用の観点から店舗等の利便施設の必要性を考慮しつつ、低層住宅地域における幹線道路沿道の高さの最高限度を、隣接する低層住宅地との乖離が1、2階程度となるよう、引き下げるべきである。 また、デザイン規制については、地域にふさわしいものとなるよう、形態、意匠、色彩等の基準を明確化するとともに、三方の山々の内縁に位置する地域の特色を踏まえ、これらとの調和を図るため、勾配屋根の設置や緑化を誘導すべきである。 更に、敷地の細分化を防止し、良好な景観を維持するため、美観地区等を活用し、用途地域にかかわらず、建築物の敷地面積の最低限度を設定すべきである。 ③ 歴史的市街地 京町家等の歴史的な建造物が多く存在し、鴨川をはじめとする豊かな水辺空間や緑地空間を有する特長的な景観が形成されている旧市街地(伏見旧市街地を含め、概ね明治後期に市街化していた区域)は、歴史都市・京都において景観上重要な地域である。 また、この地域では、歴史的に通りを挟んで“両側町”が形成され、都市構造や町並み景観の基盤となるとともに、地域コミュニティの単位ともなり、人々の手による景観形成の取組が期待できる地域でもある。 このような歴史的な市街地については、世界の歴史都市では、「歴史地区」などとして、景観の保全・再生の取組が進められてきているところであり、京都においても、歴史都市として、重点的な取組が望まれる。 このため、この地域を「歴史的市街地」と位置づけ、積極的に美観地区を活用し、地域の特性に応じた高さの最高限度の引き下げや、形態、意匠、色彩等のデザイン基準の策定を行うことにより、歴史的な建造物や町並みの保全・再生と、新たな時代を代表する優れた景観の創造に取り組むべきである。 また、“両側町”を基本に、敷地内に庭を配置し自然を取り込む京町家の空間構成が、街区内の緑地や空地の確保に貢献していることを踏まえ、敷地内に通風・採光、防災等に有効な空地を配置する建築計画を誘導すべきである。 なお、こうした取組に当っては、戦前の木造建築物や狭隘な通りの多い京都では、市街地の不燃化が極めて重要な課題であることから、防災性の向上の要請にも配慮することが必要である。 17 1)歴史的都心地区 「歴史的市街地」のうち、河原町通、烏丸通、堀川通、御池通、四条通、五条通の6本の幹線道路沿道地区(田の字地区)とこれに囲まれた職住共存地区 は、商業・業務機能が集積する地区でありながら、今なお、京町家をはじめとする歴史的な建造物が多く存在する、京都を代表する中心地区である。 このため、この地域を「歴史的都心地区」と位置づけ、「京都らしい風情があふれる、歩いて楽しい、快適なまちづくり」を目指し、伝統産業・商業・観光振興、交通政策とも連携した総合的なまちづくりのビジョンを策定し、取組を実施すべきである。 ⅰ 幹線道路沿道地区 幹線道路沿道地区については、近代建築物が点在し、業務系の建築物が多い烏丸通、シンボルロードとして景観形成が進められている御池通、商店街等の商業空間が中心の四条通や河原町通など、各幹線道路には、それぞれの特性がある。幹線道路沿道地区では、こうした特性を踏まえ、道路空間と一体となった、京都らしい現代的な沿道景観の形成を目指すことが必要である。 このため、積極的に美観地区を活用し、土地の高度利用を図る商業・業務の中心地区であることを踏まえつつ、三方の山並みへの眺めや鴨川の東岸からの眺め、職住共存地区等の隣接地区に建つ建築物や町並み、世界遺産である二条城やその周辺の町並み等にも配慮し、建築物の高さの最高限度を10階程度に引き下げるべく、現行の高さ規制の数値を見直すべきである。 また、新たな沿道景観の創造を誘導する中高層建築物の形態、意匠、色彩等のデザイン基準を策定するとともに、細街路の通り景観に配慮した壁面の位置等の規制・誘導を行うべきである。 更に、広幅員の御池通、五条通、堀川通において、緑豊かで、ゆとりある市街地空間を形成するため、屋上や壁面の緑化、歩行者空間と一体的に整備される公開空地の誘導、にぎわい空間の創出等を行うべきである。 ⅱ 職住共存地区 職住共存地区については、京町家をはじめとする歴史的な建造物や、これにより構成される歴史的な町並みが未だ多く存在するとともに、職と住が共存し、京都の生活文化を伝える特長的な地区である。職住共存地区では、こうした特長を踏まえ、京町家の積極的な保全・再生と併せて、京町家と調和した建築物等を誘導し、“京都らしい歴史的な町並み景観”、“都市における良好な居住環境”、“都市としての活力”とが調和した、「職住共存の中低層の市街地空間」の形成を目指すことが必要である。 このため、美観地区を活用し、京町家と調和する建築物の高さとして、その最高限度を5階程度に引き下げるべく、高さ規制の数値を見直すべきである。 18 また、この地区においては、全ての建築物を対象とし、原則として京町家との調和に配慮した形態、意匠、色彩等のデザインに関する基準を策定すべきである。とりわけ、中層建築物については、歴史的な町並み景観に配慮した壁面の位置の制限、歴史的な建築様式をイメージさせるデザイン要素の導入などにより、デザイン基準を策定すべきである。 2)水辺空間や緑地空間周辺 鴨川、堀川、高瀬川、琵琶湖疏水をはじめとする河川や水路などの水辺空間や、丘陵地、樹林地、街路樹や並木等の緑地空間といった、自然が景観上の特長を表出しているあらゆる地域では、これと一体的に優れた景観を創出することが重要である。 このため、積極的に風致地区や美観地区を活用し、緑化の誘導や、壁面の位置の制限、低層部の明確なデザイン基準の策定等により、こうした地域の特性を踏まえ、建築物の規制・誘導を図るべきである。 特に、鴨川地区は、歴史的な建造物と、水辺空間、緑地空間、橋梁等が一体となった、京都の風情ある景観を形成する代表的な地区であることから、鴨川の両岸からの眺めにも配慮した景観形成に取り組むべきである。 ⅰ 鴨川西岸から河原町通 鴨川西岸では、先斗町等の連担する歴史的な建造物により、風情ある景観が形成されている一方で、これに隣接する河原町通までの間で、高さの最高限度に極端な乖離があることにより、不調和な建築物が建築されている。こうした状況を踏まえ、この地域では、建築物の高さやデザインの規制・誘導による景観の保全・再生の取組を強化することが必要である。 このため、先斗町等では、これらの連担する歴史的な建造物の高さとの調和を図るという観点から、建築物の高さの最高限度を3階程度に引き下げるべく、高さ規制の数値を見直すべきである。これと併せて、商業地域として土地の高度利用を図る地区であることを踏まえつつ、鴨川の東岸からの眺めにも配慮し、鴨川西岸から河原町通までの高さの最高限度を引き下げ、河原町通から鴨川に行くに従って、次第に高さの最高限度を低減させるよう設定すべきである。 また、これらの地区では、通りに面した部分の外観のみならず、側面、背面、屋上部分に関する形態、意匠、色彩等のデザイン基準を策定すべきである。特に、室外機、建築設備等が景観に影響を及ぼすことのないよう配慮するとともに、屋上緑化や勾配屋根の設置を誘導すべきである。 更に、京都の夏の風物詩である鴨川の納涼床についても、素材や色彩に関する基準を策定し、誘導すべきである。 19 ⅱ 鴨東地域 鴨東地域は、鴨川東岸から東山の山裾までの中間領域に位置し、京都を代表する東山への眺望に対して配慮が必要となる地域である。 このため、美観地区等を活用し、納涼床からの視点等により、概ね東山への視界が確保されるよう、建築物の高さの最高限度を引き下げるべきである。 また、室外機、建築設備等が景観に影響を及ぼすことのないよう配慮するとともに、屋上緑化や勾配屋根の設置により、山並みの景観との調和に配慮したデザインを誘導すべきである。 3)幹線道路沿道 「歴史的市街地」の幹線道路沿道のうち、美観地区に指定されている御所、 二条城、本願寺、東寺周辺などは、これらの歴史的資産と調和する建築物が誘 導されているが、美観地区に指定されていない区域では、既に歴史的な建造物 の更新が進んでいるところも多く、隣接する歴史的な町並みと不調和な建築物が建築されている。 このため、道路幅員との関係や沿道の特性に配慮するとともに、京町家が多く存在する隣接地区等との極端な高さの最高限度の格差を抑制する観点から、積極的に美観地区に指定し、高さの最高限度を6階程度に引き下げるべく、高さ規制の数値を見直すべきである。 また、新たな沿道景観の創造を誘導する中高層建築物の形態、意匠、色彩等のデザイン基準を策定すべきである。 ④ 高度集積地区等の南部地域 京都市の南部地域は、新しい都市機能の集積地域として、「創造」のまちづくりを目指す地域とされているが、十条通以南は、バブル経済崩壊後の社会経済情勢下における、土地利用に関する明確な方針が示せていないことと併せて、建築物等の景観に関する制度の適用もない。このため、長い間、点在する低未利用地、住宅、店舗、事務所、工場等の建築物等により、無秩序で、まとまりのない景観を呈している。 先端的な産業や本社機能、研究機能、流通機能等の機能集積を図り、市南部の核と位置付けられている高度集積地区においても、目標とする機能の誘致や新しい市街地としての整備が進んでおらず、京都市の新しい景観を創出する地域のあり方として、明確な方針を示せていない。 このため、高度集積地区について、その景観形成の方向性を明確化する前提として、現行の「高度集積地区整備ガイドプラン」を見直し、現在の社会経済情勢を踏まえた市街地像とその実現のあり方を明らかにすべきである。その際、地域の歴史や文化、鴨川、宇治川等の自然を生かした都市環境整備を重視するとともに、災害時にも活用できる、緑地空間等の安らぎの場の整備・確保について留意すべきである。 20 また、景観形成の観点からは、景観法に基づく景観計画に形態、意匠、色彩等のデザイン基準を定め、景観に影響を及ぼす建築物を制限する制度を導入するとともに、主要な幹線道路沿道について、協議会組織等も活用しながら、沿道景観形成に関する計画を作成すべきである。 更に、大規模敷地における緑化や公開空地の整備など、良好な建築計画の誘導を行うべきである。 ⑤ その他の地域等 これまで述べてきた地域以外の地域については、これまで述べてきた地域の方策や既存の規制を参考とし、或いは、これらの地域の中間領域として他の地域との規制のバランス等を考慮し、景観形成の取組を行うべきである。 また、三方の山々の山麓部周辺における景観保全の取組強化の考え方を、市街 地の丘陵地に適用するように、これまで述べてきた地域内の個別地区についても、これまで述べてきた地域の方策等を参考とし、景観形成の取組を行うべきである。 2.眺望景観や借景の保全 (1)基本的な考え方 ① 京都の眺望景観や借景の特色 京都の眺望景観や借景とは、三方の山々の自然風景の眺望や借景など、単に遠方の事物を眺める、或いは取り入れた景観だけではなく、視界に入る全ての景観が重層的に重なり合って織り成す「景色」「風景」として捉えられるものである。 そして、京都においては、数え切れないほどの特色ある「景色」「風景」が市域全域に広がり、それらが集合して京都の景観全体を構成している。更に、京都の眺望景観や借景は、永い歴史の中で京都の人々の共通の楽しみとして生活文化に根付いてきたものであり、見る側の文化的背景や感性も含まれたものとして、これらを総合的に捉えるべきである。 また、歴史都市・京都においては、現在、残されている良好な眺望景観や借景だけではなく、歴史史料や絵画、文学、俳句、短歌等の様々な史料等に記録されているもの、或いは現状で景観を阻害している建築物等を整備することによって復元できるものも含めて、守るべき重要な眺望景観や借景として捉えていくべきである。そして、50年後、100年後を見据えるのであれば、新しい建築物なども景観的に優れていると認められるものについては、視対象として捉えていくべきである。 21 ② 眺望景観や借景の視点場、視対象及び中間領域の特性 眺望景観や借景は、特定の「視点場」とそこから眺められる「視対象」、そしてこの眺めを保全するために建築物等の高さやデザインを規制・誘導する必要のある「中間領域」から実現されるものであり、一般的に視点場と視対象とは一対に特定されるものである。 しかし、京都においては、視対象となる歴史的資産が市内各所に多数あるとともに、広大な自然景観そのものが視対象となるなど、視対象自体が多岐にわたる。 更にはそれらを眺める視点場は、公園や河川敷など連続的に広がりをもつものが多く、視点場、視対象の組み合わせは無数に広がる。そして、それらが重層的に景観全体を構成していることが京都の眺望景観や借景の視点場、視対象及び中間領域の特性である。 ③ 眺望景観や借景の保全のための規制・誘導の方策のあり方 眺望景観や借景を保全するためには、視点場と視対象との距離、視点場・視対象の特性等に応じた、きめ細やかな取組が求められる。 また、京都においては、今後、市民や来街者等により、新たに眺望景観や借景が発見されるということも十分考えられる。このため、京都市として優れた景観の保全・再生に向け、眺望景観や借景について、絶えず歴史的資産等を検証することはもちろんのこと、市民等による提案制度の導入など、保全すべき眺望景観や借景を拡充できるような仕組みを取り入れる必要がある。 (2)守るべき京都の眺望景観や借景の抽出 このような観点から、本審議会では、歴史史料等から現時点で把握できる眺望景観や借景の視対象の候補として597件を抽出し、その中で世界遺産を含む歴史的資産周辺や、市街地が近接し、建築物の高さやデザインについて新たに規制しなければ、近い将来、眺望景観や借景が損なわれる可能性のある、緊急的に保全施策を講じる必要のある視点場と視対象とを組み合わせた次の38箇所について、具体の保全施策の検討を行った。 1) 賀茂別雷神社(上賀茂神社) 2) 賀茂御祖神社(下鴨神社) 3) 教王護国寺(東寺) 4) 清水寺 5) 醍醐寺 6) 仁和寺 7) 高山寺 8) 西芳寺 9) 天龍寺 10)鹿苑寺(金閣寺) 11)慈照寺(銀閣寺) 22 12)龍安寺 13)本願寺 14)二条城 15)京都御苑 16)修学院離宮 17)桂離宮 18)御池通 19)四条通 20)五条通 21)産寧坂付近の通り 22)濠川、宇治川派流 23)疏水 24)円通寺 25)渉成園 26)鴨川から東山 27)賀茂川から北山 28)桂川から西山 29)賀茂川右岸から「大文字」 30)高野橋、高野川左岸から「法」 31)北山通から「妙法」 32)御薗橋及び賀茂川左岸から「船形」 33)松尾橋及び罧原堤から「鳥居形」 34)西大路通から「左大文字」 35)船岡山から「大文字」「妙法」「船形」「左大文字」 36)賀茂大橋から北方 37)桂川両岸から嵐山一帯 38)大文字山から市街地 (3)京都の眺望景観や借景の分類と規制・誘導に関する手法 「(1)①京都の眺望景観や借景の特色」「②眺望景観や借景の視点場、視対象及び中間領域の特性」で述べたように、眺望景観や借景は「眺める」という多様性に応じて様々な形態が想定される。そのため、具体的取組を検討するにあたり、以下の8つに分類して検討することとした。 なお、38箇所の具体例には、複数の分類にまたがるものも数多くある。 ① 境内の眺め 賀茂別雷神社(上賀茂神社)・賀茂御祖神社(下鴨神社)・教王護国寺(東寺)・清水寺・醍醐寺・仁和寺・高山寺・西芳寺・天龍寺・鹿苑寺(金閣寺)・慈照寺(銀閣寺)・龍安寺・本願寺・二条城・京都御苑・修学院離宮・桂離宮 23 京都には多くの神社・仏閣等があり、これらは歴史都市・京都を特徴づける重要な景観要素となっている。しかし、神社・仏閣や名勝庭園の周囲や背景などに不調和な中高層建築物等が建築されることにより、境内の風趣ある眺めが損なわれる可能性がある。そのため、特に我が国の至宝とも言える世界遺産と京都御苑、修学院離宮、桂離宮においては、視点場を境内全域として定め、周辺地域に対してきめ細やかに規制・誘導していく必要がある。 二条城など市街地中心部にある世界遺産等については、周囲の一切の中高層建築物を規制することは困難であるとしても、極端に不調和な建築物が突出しないように、周囲の建築物の高さの最高限度の引下げを図るとともに、境内からの眺めにも配慮して、周囲の建築物等の形態、意匠、色彩等のデザインを規制・誘導していくべきである。 また、山麓部の世界遺産の周辺地域ついては、その地域特性に合わせ建築物の形態等を厳しく規制するとともに、不調和な建築物が突出しないように建築物の高さの最高限度の引下げを図るべきである。 更に、清水寺、修学院離宮、慈照寺など市街地を見おろす眺望等が重要な所については、その見おろしの眺めにも配慮し、特に可視領域の範囲については、屋上施設の規制や勾配屋根の設置など屋根景観の形態、意匠、色彩等のデザイン規制を図るとともに、市民や事業者等の協力を求めていくべきである。 ② 通りの眺め 御池通 四条通 五条通 産寧坂付近の通り 京都を代表する幹線道路である御池通、四条通、五条通は、通りのアイストップとして東山や歴史的な建造物などを有している特徴的な通り景観である。 一方、京都には、幹線道路などの直線的な通りだけではなく、産寧坂周辺の通りのように、移動に伴ってダイナミックに景色が変化する通り景観も特徴的な通りの眺めとして捉える必要がある。 御池通、四条通、五条通などの幹線道路については、良好な通り景観を形成していくために、屋外広告物と沿道の建築物を一体として、積極的にデザインを規制・誘導していくべきである。とりわけ、四条通など歴史的な建造物を残す通りについては、その保全とそれらを活かした通り景観の形成の推進を図るべきである。 更に、伝統的建造物群保存地区などの特に景観上重要な地区については、その景観上重要な地区から周辺への眺めも重要な要素となる。このため、周囲の建築物等についても勾配屋根の設置など形態、意匠、色彩等デザインのきめ細やかな規制・誘導の基準を示し、市民や事業者等の協力を求めるべきである。 24 ③ 水辺の眺め 濠川・宇治川派流 疏水 鴨川、桂川などの大河だけでなく、高瀬川、濠川、宇治川派流、そして疏水な ど数多くの小河川や水路が市内を流れ、それぞれが周囲の環境と相まって地域毎 に良好な水辺景観を形成していることも、京都の特長の一つである。 この水辺の眺めは、水の流れと、水辺に沿って開かれた視線の先に連続的に広 がる建築物等とが一体となって形成されているものである。そのため、この良好 な水辺の眺めをより良くするため、水辺側の積極的な緑化と合わせて、河川・水 路沿いの建築物の水辺側についても形態、意匠、色彩等デザインのきめ細やかな 規制・誘導を図るべきである。 ④ 庭園からの眺め 円通寺 渉成園 市内の神社・仏閣等には、遠景にある山々を借景として取り入れた優れた借景庭園を残すものがある。しかしながら、市街化の拡大に連れて、このような優れた借景庭園など庭園からの良好な眺めが徐々にではあるが失われつつある。 このため、現在、市内に残る借景庭園など、かけがえのない風趣ある庭園からの眺めを保全するため、中間領域にある建築物の高さの最高限度を引き下げる必要がある。 なお、特に市街地中心部にある庭園については、庭園周囲の高さの最高限度を一定の高さ以下に引き下げることが適切でない場合も想定される。こうした場合、庭園の管理者の協力を得て、周囲の不調和な建築物を遮蔽するため、植栽などを効果的に活用するとともに、庭園からの眺めに配慮した建築物等の形態、意匠、色彩等のデザインを規制・誘導すべきである。 ⑤ 山並みへの眺め 鴨川から東山 賀茂川から北山 桂川から西山 市内各所から幾重にも重なりあった山並みを眺められることは、京都の大きな特色のひとつである。その中で、特に東山に平行して流れる鴨川、西山に平行して流れる桂川、河川沿いの樹木と一体となって北山を眺めることができる賀茂川は、それぞれ三方の山並みを、広がりを持って眺めることができる貴重な視点場である。 25 しかし鴨川から東山を眺める際に、鴨東地域において河川沿いに建築される中層建築物の出現によって、東山への稜線が次第に遮られるようになっている。そのため、鴨東地域の建築物の高さの最高限度を引き下げることによって、東山への視界を確保することが必要である。また、屋上緑化や勾配屋根の設置の義務化など、視対象となる山並みに調和するように建築物等の形態、意匠、色彩等のデザインを規制・誘導すべきである。 なお、これまで三方の山々を北山・東山・西山として大きく捉えてきたが、京都において山とは、市民の生活に密接に係ってきたものであり、このことは数多くの山々に、固有の名称がつけられていることにも表れている。真の歴史都市としては、今後、個々の山についても詳細にその伝統・文化を検証したうえで、再度、視対象としての山並みへの眺めについて、よりきめ細やかにその保全手法等を検討する必要がある。 ⑥ “しるし”への眺め 賀茂川右岸から「大文字」 高野橋、高野川左岸から「法」 北山通から「妙法」 御薗橋及び賀茂川左岸から「船形」 松尾橋から罧原堤から「鳥居形」 西大路通から「左大文字」 船岡山から「大文字」「妙法」「船形」「左大文字」 “しるし”への眺めとは、ランドマークへの眺めを意味し、京都においては、「大文字五山送り火」がその代表として挙げられる。「大文字五山送り火」は毎年8月16日に執り行われる伝統行事であるが、市民の生活の中で生き続け、守られてきたものであるため、点火が行われる当日の夜だけでなく、日常の風景として保全策を講じていく必要がある。 このため、多くの市民等が利用できる公園や河川敷などを視点場として定め、中間領域にある市街地の建築物等の高さの最高限度を引き下げることにより、この「大文字五山送り火」への眺めを保全していくべきである。また、近景を構成する建築物等については、視対象となる五山の緑と調和するように勾配屋根の設置の義務化や塔屋等を規制・誘導していくべきである。 更に、西大路通から左大文字への眺めは、「②通りの眺め」でもある。そのため、沿道の建築物等の規制・誘導と合わせて、屋外広告物についても、事業者等の理解を得ながら、規制していくべきである。 ⑦ 見晴らしの眺め 賀茂大橋から北方 桂川両岸から嵐山一帯 26 京都の密集した市街地では、見晴らしとして眺められる「風景」「景色」は非常に限られている。このような中で、鴨川、桂川は、遠方まで見晴らすことができる貴重な視点場である。特に、賀茂大橋から北方への見晴らしの眺めは、鴨川に合流する賀茂川と高野川両河川を眺めることができ、北山はもとより比叡山をはじめとする東山を眺めることができる広がりのあるパノラマの景観である。この貴重な見晴らしの眺めを保全するため、河川沿いの建築物の高さの最高限度を引き下げるとともに、山々と一体的な景観を構成するように、視界に入る建築物等の所有者や管理者は、こうした良好な眺めの形成に参画しているという意識を持ち、屋上緑化や勾配屋根の設置等の基準に従うよう協力すべきである。 また、愛宕山をはじめとする西山の山々、桂川や桂川にかかる渡月橋などが一体となって眺めることができる桂川両岸から嵐山一帯の眺めは、歴史的に名勝地として市民や観光客等に広く親しまれている。 現状では、概ね良好な見晴らしの眺めが保全されているが、一部に塔屋等によりスカイラインの乱れが見られるため、引き続き、建築物等の形態・色彩・意匠等デザインのきめ細やかな規制・誘導を図るとともに、自然風景を保全していくためには、緑地等を適切に維持・管理するための取組が必要である。 ⑧ 見おろしの眺め 大文字山から市街地 京都は三方を山々に囲まれているため、山頂や山麓部に建つ神社・仏閣等から見おろす中低層の町並みも京都らしい眺めの一つである。 このため、視点場から比較的近景に見おろされる市街地については、勾配屋根の設置の義務化や屋上緑化に加え、屋上施設や塔屋等の屋根景観の規制が重要である。また、中景の見おろしの眺めを良好なものにするため、市内広範囲にわたり勾配屋根の設置の義務化や屋上緑化等を誘導していくべきである。 更に、遠景に市街地を見おろす場合においても、大規模な建築物等については、見おろしの眺めに配慮した形態、意匠、色彩等や建築物等のデザインを規制・誘導していくべきである。 なお、こうした市街地の良好な見おろしの景観は、行政による規制方策に加えて、市民や事業者等の意識によって支えられていくべきものであることを認識しておく必要がある。 (3)その他の眺望景観や借景の保全方策について 以上38箇所の保全施策を検証したが、今回、抽出したその他の眺望景観や借景、或いは、今後、追加される眺望景観や借景の保全施策については、これまで述べてきた景観の分類と保全施策を参考に検討していく必要がある。 27 (4)眺望景観や借景の保全に関する新たな施策 京都において、三方の山々の眺望景観や借景を保全するために建築物の高さやデザイン等が規制される中間領域は、美観地区や風致地区の範囲を超えて広域にわたることが想定される。そのため、従来のゾーニング規制の枠組みを超えた新たな制度の導入が必要である。 また、歴史都市・京都の眺望景観や借景は、永い歴史の中で、京都市民の美意識や愛着によって、支えられてきたものである。本審議会では、緊急的に保全施策を講じる場所についての具体的な取組について提言しているが、眺望景観や借景は、法令に基づく高さやデザインの規制・誘導により保全されるだけではなく、市民自らがその重要性を認識し、そして市民自らの手で保全されていくべきものである。そのため、京都市は、京都にある数多くの景観資産を広く公表し、景観資産の重要性を再認識してもらう努力をすべきである。そして、守っていきたい京都の眺望景観や借景について、その重要性を広く市民に周知するとともに、保全すべき区域を分かりやすく示した図面等を公開し、市民、事業者等自らが眺望景観や借景を継承していくという自覚を持つことができるように支援すべきである。 3 京町家など歴史的な建造物の保全とそれを活用した都市景観形成 京都市には、伝統的な建築様式と生活文化を伝える京町家等の優れた歴史的な建造物が存在し、歴史都市・京都の景観を構成する重要な要素となっている。 京都市では、様々な行政施策や市民等の取組によって、その保全に努力はされているものの、年々数を減らし、京都らしい風情のある景観が次第に失われてきている。 このため、市域にある景観上重要な歴史的な建造物の保全・再生の取組を更に強化する必要がある。 ① 京町家など歴史的な建造物の保全 景観上重要な京町家、近代建築物等を、現状変更行為の制限、相続税の適正評価措置等の伴う景観重要建造物に指定し、積極的に保全するとともに、安全性の科学的解明を進め、防災性に配慮したうえで防火等の規定を緩和するなどの特例措置を積極的に活用すべきである。 また、優れた文化的価値を有する建造物を保全するため、京都市の指定・登録文化財制度等を積極的に活用すべきである。特に、庭園と一体となった大規模邸宅については、名勝等の制度も活用し、総合的な保全を図るべきである。 ② 京町家等を活かした歴史的景観の再生手法の導入 京町家等が点在する地域や小規模に集積・連担する地域では、歴史的な建造物が集積している地区を対象とする伝統的建造物群保存地区、歴史的景観保全修景28 地区等の指定制度が活用できない。従って、歴史的な建造物を景観重要建造物に指定し、これを核として、“点”から“線”、“線”から“面”へと展開し、歴史的景観の再生を進める新たな仕組が必要である。 このため、景観重要建造物に近接する京町家等の改修助成を行う「京町家まちづくりファンド」を活用するとともに、景観重要建造物の修景や京町家との調和を図る建築物の修景に対し新たな助成制度を創設し、歴史的景観を再生する取組を進めるべきである。 ③ 京都らしい風情を残した通り景観の保全・再生 京都には、狭隘な通りに歴史的な建造物が建ち並び、京都らしい風情を残している地区がある。このような歴史的な町並みは、保全していくべきものであるが、防火等の安全性に課題がある。 このため、地区の住民とも協力して、京都市独自の防火条例や地区計画などを活用することにより、一定の安全性を確保したうえで、京都らしい風情を残した景観の保全・再生に努めるべきである。 ④ 京町家の保全・再生のための多様な取組の実施 歴史的な町並みの保全・再生は、行政のみでは実現できるものではなく、市民、事業者等の協力が不可欠である。 このため、景観整備機構に指定されている(財)京都市景観・まちづくりセンター等と連携し、所有者等の保全意識の啓発に取り組むとともに、保全意識のある所有者等に対する改修等への融資制度の創設、安全性の維持・向上を図るための改修指針の整備、京町家に精通した専門家による相談窓口の充実等に取り組むべきである。 また、保全意識はあっても、京町家を維持管理できない場合の寄贈申出への対応、或いは、経済事情等により売却せざるを得なくなった京町家の緊急避難的な買い上げ等の仕組を整備すべきである。 更に、京町家の保全・再生・活用を促進するため、売買や賃貸借を円滑化する流通の仕組や公的な活用の仕組を整備すべきである。 4.看板など屋外広告物、駐輪・駐車対策等の強化 都市の景観については、都市のあらゆる活動から生み出される全てのものが大きく影響するものである。とりわけ、無秩序に設置された看板やネオンサイン、電柱等に貼られたはり紙などの屋外広告物、放置自転車や違法駐車車両等は、景観を悪化させているものとして市民が身近に感じられる要素である。 このため、屋外広告物対策、放置自転車や駐車対策等を更に強化することが必29 要である。 (1)屋外広告物対策 ① 屋外広告物の規制・誘導策の強化 無秩序に設置された屋外広告物によって、都市景観が乱れている状況にある。 この状況を改善し、町並み景観の向上を図るためには、個々の屋外広告物に対する規制のみでは不十分である。従って、地域特性に応じ、町並みを対象とした規制・誘導を行う仕組について検討する必要がある。 このため、屋上に設置する屋外広告物の禁止、建築物の高さの最高限度の引き下げにあわせて、突出型屋外広告物の設置位置の最高高さの引き下げと設置範囲の限定、自動販売機に表示される屋外広告物の基準の策定など、町並み全体の景観を考える中で、建築物と一体的に屋外広告物を規制・誘導すべきである。とりわけ、眺望景観や借景の保全区域については、規制を強化していく必要がある。 また、景観整備機構に指定されている(財)京都市景観・まちづくりセンターと連携し、優良な屋外広告物を表彰する顕彰事業や助成制度により、優良な屋外広告物を誘導するとともに、専門家の派遣制度を充実させ、デザインの専門家の活用を図るなど、統一的な屋外広告物や地域色豊かな屋外広告物設置を誘導すべきである。 南部地域等においては、現在、規模、形態、意匠、色彩等について、好ましくない屋外広告物が乱立している。 このため、主要な幹線道路沿道等における屋外広告物に関する基準を見直すべきである。 ② 違反屋外広告物に対する指導の徹底 景観を悪化させている大きな要因の一つに違反屋外広告物が多いことが挙げられる。このような違反屋外広告物を放置することは、いかに良好な屋外広告物を誘導するよう基準を策定しても意味がない。 このため、違反屋外広告物に対する徹底した是正指導と、悪質な違反屋外広告物に対する告発や行政代執行も視野に入れた指導の強化を図るべきである。 また、京都市と市民のパートナーシップによる取組として、「京・輝き隊」が発足しているところであり、京都市、市民等が協力して違反屋外広告物(はり紙、はり札、のぼり旗、たて看板等)の除去活動を積極的に展開するとともに、これらの活動を通じ市民、事業者等への啓発を行うべきである。 30 (2)放置自転車・駐車対策 ① 放置自転車等の撤去の取組強化 歩道等に放置される自転車や歩道に出された商品の陳列台等については、都市景観を悪化させることにとどまらず、歩道の本来の目的である安全な歩行の確保に支障を来たすものである。 このため、京都市では、鉄道駅周辺をはじめ、約 60 箇所において、放置自転車の撤去の取組を実施してきているが、撤去自転車等の保管所の更なる確保に努めるとともに、放置自転車等の多い地域(先斗町通、綾小路通、両替町通、押小道通に囲まれた地域)において、撤去頻度を高めることや、自転車等の放置実態に応じて撤去箇所を追加するなど、取組を強化すべきである。 また、地域の商店組合、住民、警察等との連携強化による、自転車等の放置防止や商品の陳列台の歩道占用の防止、違法駐車防止の啓発など、マナー向上に関する取組を充実すべきである。 ② 駐輪スペースの確保 過度に自動車に依存しない交通体系を目指すうえでは、自転車は重要な移動手段として認識する必要がある。このため、都心部を中心に、放置自転車撤去の取組と併せ、公共用地等を活用 した駐輪場の整備用地の確保、立体化による容量確保など、駐輪需要に応じ、計画的に駐輪場を確保すべきである。 また、小売店舗等に一定の駐輪スペース設置を義務付けているが、その対象となる施設の拡大や店舗面積の引き下げ等の見直しによる駐輪場の付置義務強化、広幅員の歩道空間等を活用した一時駐輪スペースの設置など、短時間の駐輪需要に対応すべきである。 更に、民間事業者の参入を促進する仕組として、民間自転車等の駐輪場の整備に対する助成制度の導入や、地域との協働による啓発・監視活動の実施等を検討 するべきである。 ③ 駐車対策 違法駐車車両についても、景観に及ぼす影響は大きい。これを踏まえ、都市の交通政策における自動車交通に対する方針を明確化したうえで、建築物における駐車場の付置義務のあり方を再検討すべきである。 また、建築敷地に駐車スペースを設置する場合においては、建築物の通りに面した部分における駐車スペースの配置の抑制や門扉等の設置、地下や街区単位での駐車場設置の誘導など、町並みとしての連続性や通りのにぎわいに配慮した取組を実施すべきである。 31 5.緑の保全及び緑化の推進 三方の山並みに代表される緑は、京都の景観を特徴づける重要な要素であるだ けではなく、眺望景観や借景の視対象ともなる極めて重要な要素でもある。 このため、歴史的風土特別保全地区制度等を活用した緑地の保全や管理支援に景観上重要な樹木の保全、眺望景観や借景の視対象となる緑地の保全に努めるべきである。更に、歴史的風土特別保存地区内の買い入れ地をはじめとする森林等については、維持管理が行き届いていないことや植生の変化による景観への影響を踏まえ、適正な維持管理の仕組が必要である。このため、森林等の所有者との連携を図り、間伐作業等のボランティアの活用や専門家の育成など、緑の保全に対する総合的なマネジメントの仕組を導入するとともに、まとまった買い入れ地を自然に親しむ空間として活用すべきである。 一方、市街地においては、緑豊かな潤いのある空間は必ずしも多くない。このため、“都市の緑”に関する総合計画である「京都市緑の基本計画」との連携を図り、公園、街路樹、水辺の緑等の計画的な整備を図るべきである。 緑化については、屋上緑化や壁面緑化を促進するための助成制度の創設、固定資産税の優遇措置を伴う緑化施設整備計画認定制度の活用、更に一定の規模以上の緑化を義務付ける緑化地域の指定、大規模な建築計画に対する歩行空間や休息緑地の整備の誘導等を図るとともに、緑化は、改善すべき景観を一時的に遮蔽する有効な手法にもなるため、積極的に活用を図るべきである。 6.その他の景観形成に関する方策 (1)景観に配慮した道路、河川、公共建築物等の整備 電線、電柱等は、都市景観に大きな影響を及ぼすものである。とりわけ、歴史的な町並みを形成している地区においては、決して好ましいものとは言えない。 このため、京都市では、「無電柱化推進計画」に基づき、計画的に無電柱化事業を実施してきているが、今後とも、特に、世界遺産周辺、歴史的町並みを保存すべき地区、眺望景観や借景を保全すべき地域等においては、積極的に面的整備を行うべきである。 また、道路や河川の整備については、建築物の規制と併せて、快適な歩行者空間や親水空間を創出し、一体的な景観が形成されるよう十分配慮すべきである。 更に、橋梁等の土木構造物、ガードレール・道路標識等の道路付属物やバス停の上屋等の整備、或いは道路の舗装については、安全面を考慮しつつ、周囲の自然や町並みと調和した色彩や素材を用いるなど、地域の景観特性に十分配慮すべきである。 一方、公共建築物は、京都の都市景観の形成に先導的な役割を担い、民間の建32 築活動の模範となるべきものである。 このため、地域の町並み景観への配慮はもちろんのこと、京都らしい景観の創出に貢献する建築物を率先して整備すべきである。 (2)夜間景観形成 近年、建築物や樹木のライトアップによる魅力的な演出が多くなる一方で、樹木へのライトアップにより、樹木そのものの生態に影響を及ぼすことも懸念されている。また、繁華街や幹線道路沿道等では、建築物や屋外広告物のネオンサインが、夜間景観を悪化させている。 このため、歴史都市・京都にふさわしい夜間景観のあり方について検討を行い、夜間景観形成のガイドラインの作成や、建築物や屋外広告物のネオンサインに関する基準の策定により、規制・誘導すべきである。更に、長い歴史の中で市民等によって守られてきた「大文字五山送り火」の点火時の屋外灯、広告灯等の消灯について市民、事業者等は協力するべきである。 (3)景観形成に向けた市民等の参加促進 景観形成については、京都市はもとより、市民、事業者等も、主体性を持って取組を行うことが必要である。特に眺望景観や借景の保全については、市民等の主体的な取組により継承されているものが多くあり、市民等の参加が不可欠である。 このため、既に景観整備機構に指定されている(財)京都市景観・まちづくりセンターやNPO等の様々な分野の活動組織と連携し、情報提供、相談、専門家派遣、活動支援、顕彰等の取組により、市民、事業者等の景観に対する意識の醸成、自発的な景観形成の取組や協力者の参加を促進すべきである。 また、景観法に基づく景観協議会の制度の活用など市民、事業者等による景観形成のための協議の場の設定、地域の景観上重要な要素や景観を悪化させている要素の抽出作業、景観シミュレーション技術を活用した地域の景観像の検討など、市民等が参加した中での地域ごとの景観形成の取組や合意形成を円滑化する取組を実施すべきである。 更に、市民、事業者等に対する情報提供や啓発、自発的な取組の支援を積極的 に行い、建築物等の高さやデザインに関する自主的規制や景観協定の締結促進、地区計画制度の活用等による景観形成の取組を実施すべきである。 (4)景観形成に関する教育の充実と活動を支える人材の育成優れた景観を継承し、持続的に発展させていくためには、市民の理解を深め、将来の景観形成の活動を担う、高い見識を持った人材を育成する“教育”は極め33て重要である。 このため、家庭や地域社会などにおいて身近な景観について話しあうことが重要であることはもちろんのこと、京都市の先導的な学校教育の課程における景観・まちづくり分野の教育の充実、生涯学習における自主的な活動の奨励、更に、京都が先駆的に景観に関する新たな研究会等の設立を提言していくことにより、景観形成の重要性について幅広い市民等の理解を深めるべきである。 また、景観や環境に造詣の深い建築・デザイン分野等の専門家の育成と活用など、景観形成の活動を支える人材を積極的に育成すべきである。 34 Ⅳ.景観政策の推進に関する事項 1.景観形成のためのマスタープランの策定 京都市は、これまで景観形成に関する先駆的な取組を行ってきたが、景観法の制定を受けて更に取組を充実させ、計画的かつ着実に景観形成を進めていくことが必要である。 また、景観形成には、市民をはじめ、あらゆる主体の参加と協力が不可欠であるため、まず、京都市の目指す景観形成のビジョンや様々な取組を市民に分かりやすく伝えていくことが重要である。 このため、美観地区の指定拡大等の制度の充実と併せ、京都市が、景観法に基づき策定した現行の「京都市景観計画」を更に発展させ、将来を見据えた景観形成のビジョンや地域別の景観形成の方針、これに基づく取組を総合的にまとめた景観形成のためのマスタープランを策定し、計画的に景観形成の取組を実施すべきである。 その際、現行の景観計画区域のみならず、将来的に市域全域を対象とするとともに、市民に理解しやすい内容とするため、制度の体系化・統合化に努めるべきである。 また、今後とも、景観の現状や取組の効果の把握に努め、必要に応じて取組の充実を図るべきである。 2.総合的な景観形成の取組の実施建築物をはじめとする人工物のみならず、あらゆる都市活動によって顕在化する都市の姿が景観となるといっても過言ではない。 このため、民間の開発行為・建築物等の規制・誘導、先導的な公共建築物の整備、景観に配慮した道路・河川等の整備、市民、事業者等の景観形成に関する活動の促進等、ハード・ソフト両面から総合的に景観形成の取組を行うべきである。 その際、行政の財政支出を伴うものについては、必要な財源の確保とともに、民間活力を利用するために、不動産の証券化やファンドの活用、或いは開発事業者に一定の負担を求めるなど、経済的手法の導入に努めるべきである。 また、土地利用の視点も含め、あらゆる制度・手法を駆使し、京都独自の創意工夫を生かして景観形成の取組を行うことはもちろんのこと、景観に影響を及ぼす背景となる社会経済情勢の動向を踏まえ、文化財、住宅、産業、観光、交通、教育等の各種政策との連携を図り、景観形成の取組を行うべきである。その際、行政関係部局は、推進体制の整備等により連携を強化し、特に、中心となる景観行政、都市計画行政、建築行政は、言うなれば、都市空間全体を対象とする「空間行政」の担い手として、より緊密に連携すべきである。 35 3.関係機関との連携 京都の景観形成は、京都市のみで実現できるものではなく、国をはじめとする関係機関との連携が不可欠となる。 このため、道路、河川、公園等の景観形成上重要な公共施設の管理者等としての国や京都府、京都市に隣接する地方公共団体、電力・通信・ガス等の占用企業者、景観やまちづくりに関するNPO等の活動組織、職能団体、小中学校・高校・大学等の教育・研究機関、関連学会などとの緊密な連携を図るべきである。 また、京都の優れた景観を守ることは、京都の行政、市民、事業者等の責務であるが、この京都の優れた景観は国民共通の財産でもある。その保全・再生のために、国からの支援や所要の制度改正・創設が行われるよう、京都市が進める国家戦略としての京都創生の取組の中で、積極的に要請すべきである。 36 おわりに 本審議会は、平成17、18年度2箇年にわたって「時を超え光り輝く京都の 景観づくり」について審議を行ってきた。審議の内容については、単に高さやデザインに係る技術的側面からの方策についてだけではなく、京都市の景観の持つ奥深さを追求するため、豊富な資料をもとに、多岐にわたる審議が続けられた。 その特徴は以下のようである。 最初に、京都の景観に関する基本精神と文化的意義について審議したうえで、京都のあるべき景観形成の基本的方針を明確にしたことにある。京都の景観の本質を理解することは、最も重要な論点であり、保全・創出の基本的な命題と言える。 次に、前述した京都の景観形成の基本的方針に基づき、景観とは“公共の財産”であるという基本的考え方のもと、地域特性に応じた景観のあるべき目標を明らかにし、建築物等の規制・誘導方策の内容を明確化したことにある。このように地域毎に検討を重ねた審議はこれまでにない試みであった。 最後に、景観をつくり、育てるための仕組について審議し、京都市、市民、事業者、専門家及び関係機関等の合意形成や実施の取組など、総合的な方策について審議したことにある。 京都の景観の変容が進行する中で、将来を見据えた景観政策の展開は、喫緊の課題であり、まさに「時間との勝負」である。そのため速やかな取組を求めるものである。 一方で、歴史都市・京都の目指すべき景観とは、時代に応じて絶えず新しい概念を取り入れつつ、新旧が融合し、独特の文化を形成していくものである。そこのため、景観形成の取組については、硬直化することなく、刷新を続け、長い時 間をかけて、今後とも歩みを続けていく必要がある。 この最終答申は、時を超え光り輝く京都の景観づくりのスタートに過ぎない。 今後、適宜、見直しを図りながら、50年後、100年後を見据えて、国等の支援も得ながら、京都市、市民、事業者等が一丸となり、真の京都の景観づくりをすすめていくことを強く期待するものである。 1 (参考資料) 「時を超え光り輝く京都の景観づくり審議会」開催経過 平成17 年7 月25 日 8月26日 10 月12 日 11 月 1 日 12 月22 日 平成18 年 2 月19 日 2 月22 日 2 月23 日 3 月14 日 3 月27 日 6 月26 日 第1 回審議会 ・諮問 ・歴史都市・京都の景観形成の取組と検討の視点につい て 第2 回審議会 ・地域類型別の検討について ① 三山の内縁部 ② 旧市街地(京町家が多く残る地域,水辺空間や緑 地が特徴的な景観を構成する地域) 第3 回審議会 ・地域類型別の検討について ① 田の字地区 ② 職住共存地区 第4 回審議会 ・地域類型別の検討について ① 三山と山麓部 ② 高度集積地区 ③ 京町家等の歴史的な建造物,水辺空間等が特徴的 な景観を構成する地域(鴨川,木屋町,先斗町周辺) 第5 回審議会 ・中間取りまとめ(骨子案)について 京都市景観シンポジウム ~時を超え光り輝く京都の景観づくりに向けて~ 京都市景観シンポジウム分科会(1 日目) 京都市景観シンポジウム分科会(2 日目) 第6 回審議会 ・中間取りまとめ(案)について 審議会から京都市へ中間取りまとめを報告 第7 回審議会 ・眺望景観や借景の保全について (眺望景観・借景の定義,視点場の検討,眺望景観・借景 の第1次抽出リストの提示など) 2 8 月4 日 9 月16 日 11 月6 日 第8 回審議会 ・眺望景観や借景の保全について (眺望景観・借景のリスト及び具体例の提示など) 第9 回審議会 ・眺望景観や借景の保全について (眺望景観・借景の保全に係る具体的規制手法の検討) 第10 回審議会 ・「最終答申(案)」について